名古屋地方裁判所一宮支部 昭和43年(ワ)18号 判決 1968年12月20日
主文
原告に対し
被告伊藤孫一は別紙物件目録記載の物件につきなした別紙登記目録(一)記載の登記の否認登記手続をせよ。被告〓野さなへは別紙物件目録記載の物件につきなした別紙登記目録(二)記載の登記の否認登記手続をせよ。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
原告は、「被告伊藤孫一は原告に対し別紙物件目録記載の物件につきなした別紙登記目録(一)記載の登記の抹消登記手続をせよ。被告〓野さなへは原告に対し別紙物件目録記載の物件につきなした別紙登記目録(二)記載の登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。
一、破産者〓野光春は、昭和三九年一一月三〇日、その引受にかかる為替手形の支払を停止し、支払不能となり、名古屋地方裁判所昭和三九年(フ)第二三六号破産申立事件により、昭和四一年二月一五日午前一〇時、同裁判所において破産宣告を受け、同時に原告がその破産管財人に選任された。
二、別紙物件目録記載の物件(以下本件土地という)は もと破産者の所有にあつたが、破産者は、本件土地につき、昭和四〇年五月三一日、被告伊藤孫一との間で、売買契約を締結し、同年六月一日、別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記を経由した。
三、しかしながら、右売買は、破産者および被告伊藤孫一において、破産者の支払停止および破産債権者を害することを知つてなした行為であるから、原告は、右売買行為を否認し、被告伊藤孫一に対し、破産法第七二条第一号、第四号により、別紙登記目録(一)記載の登記の抹消登記手続をなすよう求める。
四、被告〓野さなへは、破産者〓野光春の配偶者であるが、原告が、前記のとおり、本件物件につき、被告伊藤孫一に対し否認権行使の訴を提起した後に、昭和四三年一月二〇日、被告伊藤孫一より本件物件の贈与を受け、同年三月二五日、別紙登記目録(二)記載の所有権移転登記を経由した。
五、しかしながら、右贈与行為は、被告伊藤孫一に対する否認の原因あることを知りながらなされたものであるから、原告は、右贈与行為を否認し、被告〓野さなへに対し、破産法第八三条第二号により別紙登記目録(二)記載の登記の抹消登記手続をなすよう求める。
被告伊藤孫一訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。
一、請求原因第一項の事実を認める。同第二項の事実中、本件土地につき、破産者から被告伊藤孫一へ原告主張どおりの移転登記がなされたことを認めるがその余の事実を否認する。
第三項の事実を否認する。
二、訴外破産者〓野光春から被告伊藤孫一への本件土地の所有権移転は正当な行為によるものであつて、何等破産者の債権者を害するものではない。即ち、
(1) 被告孫一は、娘さなへの夫である破産者から、昭和三九年一月頃、本件土地購入資金の融資方の依頼を受けたのであるが、娘さなへには、破産者との婚姻の際、充分な嫁入り仕度を整えてやらなかつたことや、当時破産者夫婦の居住していた家屋につき、明渡しの請求を受けていたことなどから、同女に対するいわゆる「財産分け」として、被告孫一が本件土地購入資金を支出し、これを娘さなえに買い与えることとした。
(2) その土地購入資金負担の方法は、単に資金を与える方法によらず、破産者の当時の事業を援助する趣旨をも含めて、破産者の取引先である尾西信用金庫に被告孫一名義の定期預金をなし、破産者の同金庫に対する手形割引等により負担する債務の支払を担保せしむるため、右預金につき、同金庫に対し、質権を設定する方法によるものであつた。そして、被告孫一は、同金庫に対し、昭和三九年一月二九日、金二三〇萬円余の定期預金をなした外、同日以降昭和四〇年三月三〇日までの間、合計金五九〇万円余の定期預金をなして、それぞれ、これにつき質権を設定をした。
(3) 右の方法により本件土地購入資金を与えて、娘さなへのため、約金一五〇萬で、本件土地を購入せしめたのであつたが、破産者は、本件土地を自己所有名義で登記をなした上、本件土地につき自己の債務を担保するため、抵当権を設定するに至つた。被告孫一は、昭和四〇年春頃、その事実を知り、破産者、娘さなへと協議の結果、右三者間において、その頃、一旦、本件土地の所有名義を土地購入資金を支出した本来の所有者である被告孫一の名義に変え、同被告において、本件土地の被担保債権を弁済して消滅させた後、適当な時期に、娘さなへに贈与することの合意がなされた。なお、破産者より被告孫一への所有名義の変更の方法については、錯誤を原因として所有者名義の更正登記手続をなすべきであつたが、登記手続の便宜上、売買を原因とする所有権移転登記手続をなすことにした。
(4) かように、本件土地は、もともと、被告孫一が購入資金を出して、娘さなへのため、買い受けたものであるから、破産者の所有に属するものではなく、従つて、破産者より被告孫一への所有権の移転は、単に実体関係に符合させるためなされたもので、何等破産者の債権者を害するものではなく、又破産者を害する意図もなかつた。
被告〓野さなへ訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「請求原因事実中、破産者〓野光春が、原告主張の日に破産宣告を受け、原告が管財人に選任されたこと、原告が被告伊藤孫一に対し、否認権行使の訴を提起したことは認めるが、その余の事実は否認する。」と述べた。
(証拠省略)
別紙
物件目録
一宮市大和町宮地花池字古宮四六番地の一〇
宅地 一九八・三四平方メートル(六〇坪)
登記目録
(一) 所有権移転登記
名古屋法務局一宮支局昭和四〇年六月一日
受付第九五四一号
原因 昭和四〇年五月三一日売買
所有者 岐阜県海津郡南濃町羽沢五八七番地の一
伊藤孫一
(二) 所有権移転登記
名古屋法務局一宮支局昭和四三年三月二五日
受付第五九四五号
原因 昭和四三年一月二〇日贈与
所有者 一宮市久古見通五丁目六番地
〓野さなへ